ハイエク、満タンで!

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ハイエクは、フリードマンと並び、新古典派でリベラリズムの総帥とも称されることもあるが、彼をフリードマンとは同列に並べない方がいいことがわかった。ハイエクの論は、フリードマンのように自由市場の擁護にではなく、社会主義が導いてしまう全体主義の問題点を徹底的に指摘することに集中している。


現代の資本主義の中でしか生きたことがない私のような人間にとって、ハイエクが必死に論じた集産主義・経済計画化の危険性は、本書を読むまではとても想像できなかった。全体主義が採用されたドイツ、ソ連のような社会では、いま当たり前のように享受している自由がなくなってしまったという。ひとたび政府が計画化をはじめると、個人は、社会や国家という高次の存在がめざす目的に役立つための単なる手段に堕してしまう。その結果、個人は所得の使い道や職業選択の自由、表現・思想の自由、そして人生を自ら決定する自由さえ奪われてしまうというのだ。そんな信じられない社会が、かつて実際資本主義に代わる最善の解決策として、当時の経済学者の理論上の支持とともに実践された時代があった。「世俗の思想家」を読んだ際には、ユートピア社会主義者たちの志に共感したが、つくづく人間の善意が善い結果を生むことは限らないこと、むしろ意図せずして災禍をもたらしてしまうときの恐ろしさを知った。「民主主義は最悪の政治形態だった。ただし、これまでに試されたすべての形態を別にすればの話であるが。」と言ったのはチャーチルだが、この言葉の真価は、民主主義の代案としての全体主義が、どのような社会を必然的につくってしまうのかがわかって始めて理解できるようになるのだろう。


第五章の、公共の福祉とは「内実のない概念」で、「特定の行動指針を決定するのに必要な、明確な意味を全くもっていない」という指摘には、目から鱗が落ちる思いだった。日本国憲法の第13条には、『すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。』とあるが、これは味わい深い文言である。まず「幸福」ではなく「幸福追求」に対する国民の権利と表現されているのは、幸福が公共の福祉と同様、特定で明確な意味を持っていないため、各々が各々のやり方で幸せになれるようにとの配慮なのだろう。「公共の福祉に反しない限り」という表現も、ハイエクに言わせれば、内実のない公共の福祉という概念を定義・判断するのが、一部の権力者ないし当局になったあかつきには、功利主義・最大多数の最大幸福の名の下に、個人は全体にとって有害な存在として排除されかねないということになる。


1944年に書かれた本書の限界としては、ハイエクが世界は全体主義社会か自由な社会かの二者択一しかあり得ないとしたところだ。しかし20世紀後半以降の歴史は、民間部門と政府部門が共存して経済活動を行う、混合経済が成り立ち得ることを示している。ハイエクはさらに、経済に政治が介入してくることを嫌い、政治と経済が分離することにより、利益集団の癒着は避けられ、民主主義は機能すると考えた。しかしこれは現代の資本主義的民主主義的社会―それも彼が理想とした小さな政府が最も体現されているアメリカ―をみていると、両者の分離は不可能に思える。資本主義の黎明期から、すなわち日本では明治維新から、豪商は政治と密接に結びついていた。産業界がロビー活動・献金など、あの手この手で政治へ働きかけようとする試みは、アメリカでも(日本でも)一向にやむ気配がない。それを規制するルールも制度化出来そうにない。それともこれも、J.S.ミルが、「分配」の局面では、社会のルール次第で、人間が生産物を好きなように処分できると喝破したように、資本界のレント・シーキングも見せかけの経済法則であり、人間次第でなんとかできる範疇にあるのだろうか。


最後に、現代の経済学者に残された課題は、ハイエクの「多様な人々の要求を序列化するという問題に、人間の理性なり平等の公式なりが、解答を用意できるのは幻想だ」という言葉に答えることではないでしょうか。


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by healthykouta | 2014-07-22 22:52 | 読書 | Comments(1)
Commented by きょうこ at 2014-07-28 13:09 x
ブログにコメント書くの初めてです。

実はここ最近家族のこととかでずっと辛い思いをしてました。

でもこちらのブログに巡り合えて、共感する所もあったりして「救われた」気持ちになれました。勝手にこんなこと言われても困っちゃいますよね?ごめんなさい

是非この素敵なブログの管理人さんと仲良くしていただきたいなぁって…

これ私のです↓

xxvcocovxx@ezweb.ne.jp

熱い日が続いてます。お身体ご自愛ください。