世界から学ぶ日本の電力会社

電力会社の利己的な動機から出たアイデアが、日本を救う(?)


利他的な動機を持たなければ、利他的な結果が生まれないとは限らない。アイデアの質と動機に必ずしも相関はない、という面白い展開がみれた。


電力会社は、今後の低炭素化の世界的潮流に対応したエネルギ―供給を可能にし、人口減少と少子化で衰退する地方を救うためには、ドイツのように自治体が新たに電力会社をつくり、配電線をつくり、再エネは送電線に流すのではなく、地域で消費させる、地産地消的なやり方がよいとしている。


なにより面白いのはそれが、自由化された未来で自社の生き残りを懸けた日本の電力会社が、自由化が先行した欧米のような展開になった場合に自分たちの組織維持が困難になることを見た上で、そうならないよう、電力会社がつぶれないような、別の未来をつくりあげたということ。そしてそれが日本全体にとってもいいような公益性も兼ね備えているようにみえるということ。苦肉の策が、起死回生の逆転の一手になった。


これまで日本の電力会社は、自由化を遅らせて、改革を遅らせて、技術が開発され、欧米の経験・知見が蓄積するまで、いわば欧米には自然実験をさせてその帰結を見届けて、粘って粘って時間を稼いだ。だからこそ浮かび上がってきた代案。見事と言うしかない。日本はこの点で、決して世界に先んじることがなかった。世界のリーダーではなかった。「日本辺境論」で内田樹が言うように、日本は常に外からのアイデア・文明をキャッチアップしてきた。ただし既得権を持つ集団を損ねないようなやり方で、歴史を選択的に学び採用した。これが内田のいう日本人の「疾病利得」=後発者の利益ではないか。


「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(加藤陽子 著)で、「外交政策の形成者は、歴史が教えたり予告していると自ら信じているものの影響をよく受ける」といったアメリカ人の歴史家アーネスト・メイの言葉を引用しているが、まさにこれである。ただし、アーネスト氏はこの原理を、「なぜアメリカは最も頭脳明晰で優秀な政策担当者がいながら、ベトナムに介入し、泥沼にはまるような決断をしたのか?」という問いに答えるために用いて、「政策形成者は通常、歴史を誤用する」と述べているが、電力会社は、同じ轍を踏まないように、歴史を上手く用いているようだ。


このビジョンは、電力会社にとってのみ利益なのではなく、一見公益にもかなっているようにみえる。災害に強く、少子化・人口流出に悩む地域の衰退を止める新たなまちづくりにつながり、低炭素社会の実現にもなる!という大義がある。


同時に電力会社の望ましくないシナリオを避けられる。そのシナリオとは、電気という財の販売をめぐって新電力と競争が激化すること。今後人口が減り、総電力需要量(電源の消費量)が伸びないことはもう間違いない。しかも再エネの固定価格買取制度(FIT)の賦課金の増加により、自家発電の経済性が高まると、どんどん消費者は電気を自給しだす。するとますます電力会社の販売量は下がる。一人当たり電力消費量の増加も期待できない。(熱(ガス化)・交通(電気自動車)面でオール電化は推し進めるけど、余地は多くはない)そんなときに電力会社が送電線投資なんてしてられっかよ。投資費用回収不可能。さらに投資したら、競合他社の再エネがますます入って自社のシェアは減る。競争上不利になる。だから送電線投資は絶対したくない。避けたい。投資はコスト。カットの対象。送電線投資が望ましくない理由を、「託送料金(電気料金)が上がるから」と消費者の立場をおもんぱかってるようなことに言うが、そんなことになったらますます自家消費がすすんで電力会社の販売量も落ちてしまうという事情も隠れている。負のスパイラル。アメリカの電力会社が直面していることである。それを日本の電力会社は学んだ。


再エネを電気として扱うと競合する。広域で融通して取引させるとシェアが奪われる。だからそうならないように、地産地消にする。これがクラスター構想。マイクログリッドの本質ではないか。というか舞台裏。そして再エネ電気は地域で熱に変えたり、水素に変えたりをすすめる。これで、肝心のお得意様である産業用大規模需要者には依然として売れる。主要な収入源。そして再エネたちには、地方で供給させる。グリッドにのせない。石炭をベースロードで、負荷追随させずに運転できる!高効率で競争力維持!販売!安定収入!新電力には負けない!このビジョンでいくなら「ベースロード」が蘇る。電源間の役割分担。


貫徹委員会では、電力会社の販売量が減少しても収入を維持できるように、収入多角化戦略として、kw価値をもらう(容量メカニズム)。原発など低炭素に価値を認めてもらって支払(補助金)を受ける。ベースロード電源を切りぬいてメリットオーダー効果による押し出しを避ける。


組織の利害にとらわれずに済む研究者は、このビジョンが本当に最も望ましいのかよく考えてみなければならない。一見win-winであり、共存共栄が図れる夢のようなアイデアだが、はたして本当にできるか、全体にとって最適なのかどうか。欧州のように、送電線を増強投資し、発送電分離を法的分離以上に推し進め、再エネはグリッドに受け入れて広域連係をがんがん行うことで吸収・需給調整を行うというやり方と、どっちがいいのだろうか。これからの日本にとって。


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by healthykouta | 2016-11-28 19:46 | 震災 | Comments(0)